【薬剤師が解説】『薬としてのCBD』。作用のメカニズムや用法・用量、薬物相互作用。

イギリスのGWファーマが開発したCBD医薬品『エピディオレックス』は、2018年に米国FDA(米国食品医薬品局)にて承認され、世界で大きなニュースとなりました。

CBDは、原料が「大麻」ということもあり、日本ではまだまだ怪しい成分と思われる方も少なくありません。しかし、近年の研究結果や作用のメカニズムを見ると、すでに流通している処方薬と同様の作用を持ち、効果を発揮しているということが理解できると思います。

○てんかん薬としてのCBD
「てんかん」とは脳の慢性疾患で、脳内にて突然起こる激しい電気信号によって、けいれんや意識の消失などの症状が1日に何度も起こります。
CBD医薬品エピディオレックスは、難治性のてんかん発作を抑える薬であり、米国のFDAにて正式に承認された初めての大麻製剤です。
この薬は、CBD濃度10%の製剤で、その他の成分としては無水アルコール、セサミオイル、ストロベリーフレーバー、スクラロースなどで作られています。日本では未だ承認されていませんが、有効成分はCBDアイソレートなので、現在市場で販売されているCBDオイルでも代用できるでしょう。

エピディオレックスは、1歳以上の小児から使うことができ、これまで他の薬が効かなかった患者にも改善効果が見られることから、新たな治療効果を有する薬として非常に注目されています。

○サプリメントとしてのCBD
一方、欧米でサプリメントとしても人気の高まったCBD製品は、ここ2〜3年で日本でも頻繁に見かけるようになりました。CBDサプリメントは、日本では医薬品のような効果は謳えませんが、一例として下記のような症状への改善効果が期待されています。

・睡眠を促す効果

・不安を落ちるつける効果

・イライラなどを鎮めるリラックス効果

・頭を整理し、集中力を高める効果

・片頭痛の抑制効果 など

一般的にはあまり知られていませんが、てんかん症状に使用される処方薬の中には、上記の効果を持つものがいくつかあります。

睡眠薬として有名なベンゾジアゼピン系の薬の中で、「クロナゼパム」はてんかんへの薬として使用されています。また、てんかんの全般発作の第一選択薬である「バルプロ酸」は、躁状態の抑制や片頭痛の症状を抑えるために使用されます。

このようにてんかんの薬であるCBDが、不眠や不安に対する効果や、偏頭痛への抑制作用を持つことは、理論的にも説明がつきます。

○CBDが作用するメカニズム
CBDが作用するメカニズムとしては、エンドカンナビノイドシステム (ECS)への作用が真っ先に挙げられるでしょう。しかしながら、ECSの知名度はまだまだ低く、この点もCBDが怪しいと思われる原因の一つだと思います。

ECSは、簡単に言えば体内において様々な恒常性のバランスをとるシステムです。CBDをはじめ多くのカンナビノイドは、直接・間接的にここに作用していると言われていますが、それ以外にも様々な物質と関連があることが分かってきました。

 

・抗てんかん作用
実は、エピディオレックスの添付文書上では、薬の作用はカンナビノイド受容体を介したものではなく、さらに明確な作用機序は未だ不明とされています。しかしながら、近年の研究においては、エンドカンナビノイドシステムへの直接的・間接的な作用の他、次に記載するセロトニンやGABAなどへの総合的な作用により、てんかん発作を抑えていると考えられています。

 

・セロトニン様作用
体の中の神経伝達物質『セロトニン』は、幸せホルモンとも呼ばれ、睡眠と覚醒気持ちの浮き沈みのバランスを取ったり、記憶の維持等に大きな影響を及ぼします。そのため、体内でセロトニンが不足すると、睡眠時間が低下や、イライラや不安を感じることが増えたり、集中力が低下したりします。このことから精神病やうつ病への処方薬でも、体内のセロトニンへ作用する薬は、代表的なものの1つです。

CBDは、この体内のセロトニンが作用するセロトニン受容体(5-HT1A)と直接結合し、睡眠を促したり、イライラや不安な気持ちを落ち着けます。また比較的低容量にて、同じくセロトニンの作用である記憶を整理し、頭をスッキリさせ、集中力を高める効果も発揮します。

・GABAの作用を増強
GABAは、セロトニン同様に生体内の神経伝達物質ですが、セロトニンが生体内のバランスを取るのと比較して、GABAは体の活動を抑制する効果がより高い物質です。睡眠薬や不安を落ち着ける薬の代表であるベンゾジアゼピン系の薬は、主にこのGABAの働きを強めし、効果を発揮します。

CBDも同様、間接的にGABAの活動を亢進することで、睡眠を導いたり、不安な気持ちを落ち着ける効果を発揮します。

上記はCBDの作用メカニズムの一部ですが、これらからもCBDが革新的で魔法のような作用を持つ薬ではなく、すでに流通している処方薬と同じような作用で効果を発揮していることが分かると思います。

○CBDオイルの用法、用量
エピディオレックスは、下記用量で使用することとされています。

開始時  :2.5 mg/ kg(体重)   1日2回
1週間後〜:5.0 mg/ kg             1日2回 まで増量可
最大   :10  mg/ kg             1日2回 まで増量可

開始時の用量で考えた場合、1歳半(約10kg)の乳児で1回25mg。CBDオイル10%を使うと考えた場合、 ドロップ約5滴 (0.25mL)です。50kgの成人の場合で、ドロップ約25滴(1.25mL)。これを1日2回摂取します。

日本でサプリメントとして使用する場合、もっと少ない量で使用されている方が多いようです。基本的には低容量から試してみるのが良いので、例えば成人の場合、1回につきドロップ5滴から開始して、上記用量を参考に、症状を見ながら量を2倍、3倍という形で、調節していくことをお勧めします。

○CBDの安全性と薬の相互作用
CBDは、体感としての作用は比較的穏やかで、副作用も少なく、成分への依存性も少ないことから、ヘルスケアの分野において比較的安全な成分だと言われています。上記の使用量などを参考に少量から使用していけば、問題が起こる可能性は非常に少ないでしょう。

また、エピデオレックスの添付文書には、併用禁忌(一緒に使用することが原則禁止)とされている特定の薬はありません。しかし、次のような方や他の薬を飲まれている場合は、注意する必要があるでしょう。

・肝機能に障害のある方
CBDは肝臓のメジャーな代謝酵素CYP3A4やCYP2C19などにて代謝されます。肝機能の悪い方は、肝障害を悪化させたり、CBDや薬の作用が増強される場合があるので、使用は避けた方が良いでしょう。

・肝臓で代謝される薬を服用中の方
肝臓にて上記の同じ酵素で代謝される薬剤と併用した場合、それぞれ効果が増減する可能性があるので、注意が必要です。

・同様の作用を持つ薬を服用中の方
CBDと同様の作用(抗てんかん、誘眠、抗不安など)をもつ薬とは、相互作用により効果が強く現れる可能性があります。

添付文書にて、具体的に注意が記載されている薬剤の一部には下記のようなものです。

気管支拡張薬:テオフォリン、カフェインなど

麻酔薬:モルヒネ、プロポフォールなど

抗てんかん薬 - クロバザム、バルプロ酸、ラモトリギンなど

中枢神経薬 - ジアゼパム、ロラぜパム

その他、一般的に薬と一緒に飲んではいけないもの、アルコールやコーヒー(カフェイン)とも相互作用が考えられますので、一緒に摂取する場合は注意が必要です。

また、海外では一部の方にCHS(Cannabinoid hyperemesis syndrome)という、いわゆるカンナビノイド成分に対するアレルギー症状が報告されています。具体的な症状としては、吐き気、呼吸障害、皮疹などが挙げられます。これは個人の体質によるものなので、少量のCBDでもこの様な症状が現れてしまう方は、摂取を控えるようにしましょう。

特に日本には、まだまだCBDについての知見を持った専門家は少ないので、医師や薬剤師の方に相談される際は、上記の情報を伝えて相談されると良いかもしれません。

 

○CBDで変える生活習慣
CBDは手軽に安全に摂取でき、様々な症状に効果のある非常に有用な成分ですが、万能薬ではありません。CBDを摂取することで、症状が一時的に改善しても、連用を続けると摂取量が増えていき、やがては効果を感じなくなってしまうという可能性もあります。

私が大切だと思うことは、CBDとの出会いをきっかけに、自分の体の不調の原因を突き止めることです。例えば、セロトニン不足に気付いた人は、朝少し早く起きて太陽の光を浴びる、10分くらいの軽い運動をする、通勤時は携帯を見るのではなく、空を見上げてみる。食生活では、和食を増やし発酵食品を多く取る。朝食と昼食はしっかり、夕食は少なめにするなど。ほんの少し生活を変えるだけで、体の状態は驚くほど良く変化するでしょう。

CBDとの出会いをきっかけに、自分に不足しているもの、不調の原因となっているものを理解し、1日の生活習慣(睡眠時間、食生活、運動など)を総合的に見直す。その中で必要な量のCBDや他のものを適度に取り入れていく。CBDに依存することなく、バランスの取れた生活週間を続けていくことで、体はより元気に軽く、より充実した生活を送ることができるでしょう。


それでは
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参考文献

エピデオレックス添付文書 (04/2020改定版)

エピディオレックス公式サイト

プロジェクトCBD公式サイト

カンナビノイドノ科学(築地書館)

CBDのすべて(昌文社)